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『Roman Kunsman/Heavy Skies』(Downtown Sound SD1005) Roman Kunsman (as,fl) Phil Clendeninn (key) Alex Blake (b) Gerry Brown (ds) Badal Roy (tabla) Recorded August & September 1979, NYC 1. Fata Morgana 2. Magic Birds 3. Body and Soul 4. Heavy Skies 5. Elevation 6. Combinations 1960年代から80年代にかけてソ連ではジャズ祭の実況録音LPがたくさん制作発売された。モスクワ・ジャズ祭やサンクトペテルブルク(当時レニングラード)の秋のリズム祭のものが多いが、タリン(エストニア)、ヴィリニュス(リトアニア)、トビリシ(グルジア)、ドニエツク(ウクライナ)などのものもある。国営レコード会社のメロディヤ社が制作発売していた。たとえば黒い袋にブツを包んでくれる某ディスクショップのLPフロアで長らく売れ残っていたりする、さえないジャケのアレだ。しかしこれをなめてはいけない。聴かず嫌いは損だ。私はこれを買って聴くたびに驚かされた。いつもそのときどきの欧米のジャズのトレンドが早くも反映されているし、ジャズの歴史上に出現したスタイルはたいがい聴くことができると言っても過言ではない。ソックリさんもいれば、強烈な個性派もいる。広大な国土のソ連らしくローカル色が出たジャズが聴けたりする。ほんの一例だが、ECMのアーティストになる前のミーシャ・アルペリンはモルドヴァ風味のブギウギでパワフルに弾いていたりする。60年代のサックス奏者では、テナーではハンク・モブリー、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーンがよく聴かれていたのだろうなと想像するし、アルトではエリック・ドルフィー、オーネット・コールマンにインスパイアされた人もすでに60年代のジャズ祭LPに散見される。ビッグバンド演奏の中の短いフィーチュアリング・ソロなんかが要マークだ。私はズキっと胸に突き刺さる演奏を聴いたら名前をチェックし前後の足跡を調べることにしている。たとえばローマン・クンスマン(Roman Kunsman;1941-2002)にビックリした。1967年のモスクワ・ジャズ祭(この年には3枚もの実況録音盤が出ている)に収録されたオレグ・ルンドスレーム・オーケストラの4分程の演奏の中に、クンスマンの短いアルト・ソロが出てくる。アブストラクトな刺激的ソロである。そのあとニコライ・カプースチンのソロが始まるが、これもそそってくれる。しかしもっと短い。おそらくどっちも編集されてしまったのだろう。同じ1967 年の実況録音盤には、オーネット=ドンか?と思わず耳を疑ってしまったゲンナジー・ゴリシテイン(アルトサックス)とコンスタンティン・ノソフ(トランペット)のカルテット(as, tp, b, ds)も聴ける。ゴリシテインとクンスマンは親友同士だったという。クンスマンの演奏はオーネットライクとかドルフィーライクという言葉では間に合わない。もっと録音はないのか? 資料はないのか? こうなると60年代ソ連の「水面下」のジャズ状況にはまり込まずにいられない。 クンスマンはその後、どうやらフリージャズの方向をあまり推進しなかったらしいことを文献からうかがうことができる。70年代にはイスラエルへ移住し、テルアヴィウのジャズ・シーンの開拓に貢献したという。ウェザーリポート・ライクなグループに参画したのが話題になって1975年の米国ニューポート・ジャズ祭に招かれた際、ジョージ・アヴァキャンと再会した。1967年にアヴァキャンがチャールズ・ロイド・カルテットを引率してソ連を訪れたとき出会っていたのだ。そうした縁がもとで、アヴァキャンのプロデュースによって生まれたのが、ここに挙げたアルバム『Heavy Skies』(1979年)である。この盤では、モスクワ・ジャズ祭のときのような刺激的なアルトサックス・ソロと指向を異にする、美しいメロディ・ラインを主体にしたフルート演奏が多い。これはこれで独特の境地を切り拓いたものだと思う。アルバム後半になり、「Towards Higher Lights」で私は震えた。メロディヤの実況録音盤に入らなかった、「断ち切られた部分」を聴いた思いがした。ソ連時代のようにレコード・アルバムを作りたくてもなかなか作れなかった環境では、ジャズ祭実況盤に収録されることだけでもラッキーだったかもしれない。やりすぎれば採用されないかもしれない。クンスマンやカプースチンの67年の短いソロは、なんというかギリギリのところで進んでリスクをつかみとる選択をした演奏だったのではなかったかと、この10年以上後に録音した『Heavy Skies』を聴いたあとでしみじみ感じて、彼らが愛しくてたまらなくなった。ソ連ジャズ祭実況録音LPに収録された演奏は氷山の一角にすぎなかった。水面下にどれだけのものが隠れているのか。それを実際の音で確かめるすべはほとんどない。それだけに『Heavy Skies』は間接的ながら重要な物証であると考えている。 (この文章はJAZZ TOKYO no.170に掲載されたものと同内容です)
by jazzbratblog
| 2012-01-14 09:49
| ロシアから移住
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